籠のなかの小鳥は



西の空が赤く焼けている。中天はまだ青みをのこし、東の端から夜の黒が濃さを増す。

その空の低い位置に、白い月がぽっかりと浮いている。すこし丸みを欠いた、片貝のようなやさしい形のお月様だ。

四彩が共演する空を、小鳥はきれいだなぁと見上げる。

日本にいたころは、こうしてしみじみと空を見たことなんてなかったけれど。排気ガスで汚れていない空は、月も星もよく見える。
映画はおろか、写真もない世界にいると、天然のプラネタリウムは立派な娯楽なのである。


少し早く着いてしまいました、その声にふりむくと珀斗の姿があった。


常寧殿の廂の間に設けた月見の席だ。
かづらが、それはそれは張り切って采配をしたので抜かりはない、はずなのだけど。
様子を見るために、早目に来てくれたのだろう。


「いい月夜ですね、望月にはまだ早いけれど。これくらいの月が風情があって、わたしは好きです」

「はい、桜も八分咲きくらいがいちばんきれいだと思います」
小鳥もうなづく。
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