籠のなかの小鳥は
「日が落ちると、少しは涼しくなりますね」
言いながら檜扇で顔をあおぐ。扇は飾りではなく、立派な実用品だ。


水無月に入ってから、気温と湿度は高くなるばかりだ。吹く風さえ重く感じられる。


とても五重襲の袿など着ていられない。今日は蝶の浮線綾を擣ち出した表衣に、透ける絽を重ねた格好だ。
スカートと半袖のシャツが懐かしい今日この頃。


珀斗が首をかたむけて、月を見上げている。そのこめかみから、月の光によく似た銀髪がひとふさ流れている。


わずかのあいだに、日はすっかり落ち、月と星にその座を譲っている。
清かで優しい月の光が、あたりを照らし出す。


聡明で思慮深い白の宮、珀斗。群臣の信望も篤いという。
この世界に来てからどれだけ助けられたことだろう。



宮様、と言葉が思わず口からこぼれた。

「——白の宮様は、帝になろうとは思われないのですか?」

蘇芳とよく行動を共にし、ウマが合っている様子の二人である。ライバル意識を持ってもおかしくないのに。
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