籠のなかの小鳥は
第六章/夏天に朱雀



蘇芳の私邸の使用人たちは、女房から下仕えの者まで、うわさ話でもちきりである。


「うちの若宮様は、お忍びでお見舞いにおいでになった皇女様を、それはそれはご寵愛で」

「三度のお食事まで供にされて」

「皇女様が摘まれた明日草を、ご満悦でお召し上がりになったとか」

「片時もお離しにならないほど」

「夜のお床は別のようですけれど」

「宮中にお帰しになれるのかしら」

「お仲が睦まじくていらっしゃること」


誰もが微笑ましく寝殿の方を見つめる。



今日の夕刻には、宮中から迎えが来る。この邸を辞さねばならない。
前回のように、都へ使いに出た女房たちにまぎれて戻るのである。


「今日も暑いな」

昼下がり。風通しのいい廂の間でくつろぎながら、蘇芳がつぶやく。
体調はほぼ戻ったようで、常の緋の狩衣姿だ。


「まことに」と小鳥は言葉を返す。


アスファルトの反射熱なんかはないけれど。空気が澄んでいるせいか、太陽光がまっすぐ突き刺さってくる心地である。
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