籠のなかの小鳥は
場をあらゆる感情が思惑が、走り渦巻く。

驚愕、疑惑、混迷、恐れ、あるいは絶望———

帝よりさらに奥に、さらに高みに座する者は、この国にただひとりしかいないのだから。


珀斗はつかの間、まぶたを閉ざした。

疑惑が確信に変わっただけであっても。信じたくなかったのが本心だった。



———俺は怖いのだ。自信がない。

捕らえた諸碍を尋問したのち、蘇芳はそう漏らした。


「なにがです」驚いてたずねる。
この従兄弟が弱音を吐く姿など、珀斗の記憶にあるかぎり初めてのことだ。

「上皇と、我が父と対峙して、この手で殺めずにおく自信がない」


時すでに深夜。灯台のあかりが蘇芳の表情に深い陰影を落としている。

自分の内のなにかを押さえ込むように、蘇芳が左手で自分の右の腕をぐっと掴む。


「———わたしとて、あなたを止める自信がない。なれど、あなたに大逆の罪を負わせるわけにはいかない」


皮肉なものだな、と蘇芳が髪をかきあげる。
「政(まつりごと)の重圧から背をむけ目をそらし、色事に溺れていた我が父の気持ちが少しは分かる気がする」
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