籠のなかの小鳥は
珀斗はゆっくりと目をしばたく。


「己の運命を呪いたくなるこんな時には、無性にこの腕に穢れなきものを抱いていたくなる」

俺も弱いな、蘇芳はそうつぶやいて少し笑う。


「あなたほど靭き者に出会ったことがありません」
珀斗は静かにそう言った。



院の御所。内裏、清涼殿よりも広大な敷地を有するその場所。

蘇芳をのぞく三人は、それぞれの番を駆って降り立った。

時系列では、大極楽殿に諸碍を放り込む数日前の出来事だ。


寝殿の御簾の奥で、痩せた体を装束に包み座すその人。
頬のそげた土色の顔にくぼんだ眼窩のなかで、目ばかりが追いつめられた獣のように光っている。


我を、としわがれた声を出す。
「我を弑しようとするか」


「お望みとあらば」珀斗が平らかな口調で返す。水晶のように澄んで硬くひんやりとした声だ。
「ですが、あなたはそれを望んではおられないでしょう」

答える声はない。


「———恐ろしい御方だ。敵国に情報を流し、この国を滅ぼそうするとは。
のみならず、御自分の御子までその手にかけた」
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