籠のなかの小鳥は
おいでなさいませ、と平伏する小鳥に、一瞥を投げ与えた蘇芳の視線が、ある一点で止まった。


その花———


声の低さに、返す言葉を失う。なかば無意識に花挿しに手をやる。

すっくと膝立ちした蘇芳が、花に目を据えたまま、にじり寄る。

「黒い花は、この国にはないもの。一人だけ、わざわざ私邸に咲かせている物好きがいると聞くが」
小鳥のあごに手をかける。


赤の宮様、と几帳の陰からかづらが悲痛な声をだす。
「わたくしが、姫様の髪に・・・」


「黒の宮様にいただきました。綺麗な花なので・・・」
射抜くような蘇芳の眼光にひるみながら、説明する。


蘇芳がぎりりと犬歯をのぞかせる。
「俺が贈ったものは女房に下賜し、あいつからの花は身につけるのか」
< 52 / 247 >

この作品をシェア

pagetop