籠のなかの小鳥は
先帝である上皇が気鬱となり、公の場に姿を現さなくなって久しい。
今上帝は、もの言わぬ石像のごとし。

摂政位はもう何代か空席となっている。数年前に亡くなってから、太政大臣の地位も空位のまま。高齢の右大臣は、病がちの身。

今上帝の后の父である左大臣の専横が加速するなか、群臣たちは日和見主義にならざるをえない。


次代の帝たる東宮(皇太子)も、いまだ定まらず。


日嗣の皇子と称される親王は四人もおれど、並び立っているがために、今なお東宮の座は空位である。

早くどなたかが東宮位に———皆の望みはそこに集中したが。


上皇にはもはや指名する力とて無く。
今上帝には、自ら何かを決めるなどという気はさらさらおありにならない。


甲乙つけがたい四人の皇子の中から一人を選ぶ。
他の三人をおいて東宮にたてるには、相応の理(ことわり)が必要だがそれが見つからない。誰もがそう思っていた。



玉響の宮から、日嗣の皇女の託宣が下るまでは。


参議と四皇子からの再三の奏上にもしかし、帝はなかなか重い腰をあげようとはしなかった。
外戚である左大臣からの物言いもあった。


そんな最中、玉響の宮が急逝してしまう。
かなりの高齢であったが、卜部としての神聖性を保つために、生涯未婚を貫いた内親王。

最後まで国の行く末を憂い、『必ずや日嗣の皇女を迎えるように』と遺言して逝去した。

ここに至ってようやく、帝は皇女を迎えるべしと勅命を下した。

宮中は大いに沸いた。
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