i wish i could FLY
なかなかに楽しい日々だった。
それまで随分爛れた生活をしていた奈緒美にしては、きちんとした男女交際というものをしていたものだと思う。
譲治は奈緒美の癖を治そうと、酒の代わりにジンジャーエールを勧めた。
エールはビールのことだから、と譲治は言ったが、それは名前だけで、実際はエールの類いのものではないことを奈緒美は知っていた。
きっと譲治もジョークのひとつとして言ったことなのだろうが、奈緒美はその言葉に乗ってやろうとジンジャーエールばかりを飲むようになった。甘いのは胃がもたれるから、瓶の辛口を箱買いする程度に。
酒では無いものの、カクテルのような飲み口は、奈緒美の酒に浸った舌をそれなりに満足させた。
奈緒美と譲治のデートはなかなか平和的なものだった。
奈緒美は田舎暮らしに慣れていたし、譲治はあまり派手に遊び歩くような質ではなかった。
よって周りからはよく、隠居後の老夫婦のようだと言われたものだった。
大学のある平日は講義後に会い、近くにあった国立公園を散歩する。
都会のど真ん中にあるにも関わらずそこは静かな雰囲気に満たされていて、二人は沐浴をしたり、日光浴をしたり、つまりはやはり老夫婦のように時を過ごした。
時に日没後などに、互いに溺れ切ったカップル達が抱き締めあっていたり、熱烈なキスをしていたり、もしくはあらぬところをまさぐりあったりしているのを目撃し、にも関わらず互いに目を合わせ爆笑したりすることもあったので、奈緒美と譲治は確かに色気のないカップルであったといえる。
そうは言っても、実はそれを目撃した日の夜は譲治が酷くしつこくなるのに奈緒美は気付いていて、わざとそういう所を通ったりすることもあったのだが。
休日は一人暮らしの奈緒美の家で過ごしたり、偶に近場の商業施設に行ったり、偶に遠出をする。
大半は奈緒美の家で、つまりはしけこんだ。酒からは抜け出せたが、どうやら快楽には滅法弱い奈緒美であった。