i wish i could FLY
そして、かなりの頻度でライブハウスに連れて行かれた。
まだ青いロックバンドが好きだという譲治は、デビューしたてや、まだインディーズでやっているバンドをたくさん知っていて、山のようにCDを持っていた。
奈緒美が、節操がないのね、といえば、君ほどじゃないよ、と譲治は返した。
そして笑いあう。
身体も合えば、話もあう。
ベストカップルだと言ってまた笑いあう。
そんな感じの、実は甘ったるい時を二人は過ごした。
奈緒美の部屋には譲治が持ってきたCDの山が出来た。
それだけでも多いというのに、まだまだあるんだ、と譲治は笑った。
そしてうちにこいよ、と誘う。
実家暮らしの譲治に、結婚するわけでもないのに、彼の両親に会うことはできない、といつも断った。
その度、譲治は少し寂しそうな顔をして笑った。その顔を見ると、奈緒美は決まって胸が絞られるような感覚に陥るのだった。
譲治に連れられて行ったライブハウスはそれなりに居心地が良かった。
何かから隠れているような雰囲気は、反発を叫ぶロックバンドにはぴったりだった。
たくさんの人に揉みくちゃにされながら、奈緒美は暴れるように踊った。踊るといっても綺麗に魅せるものではなくて、リズムに合わせ、叫びに合わせて、本能的にするものだった。
人混みの中では必ず譲治とはぐれ、一人になる。
それはガス抜きとしてはいい意味を持っていたのかもしれなかった。一人っ子だった奈緒美は、どうにか自分だけの時間を確保したいタイプだったし、ライブ直後の無力感の中では、自分を取り繕える気がしなかった。
奈緒美としても、譲治には自分のいい面だけを見て欲しいという思いは少なからずあったのだ。
ライブが終われば、500円を払ってドリンクを受け取る。この時のドリンクは決まってジンジャーエールだった。