i wish i could FLY
空気の悪い路地を歩く。
スナック菓子の袋や、ひしゃげたペットボトルがそこらに散らばる風景にはもう慣れた。
当たり前のように、街が汚く、空気が汚い、この国。
毎日降るパラパラとした小雨は、暗い雰囲気を助長する。
それでも、この街に、この国に来たことに後悔はない。
いつだって、どこだって、現実とは厳しいものだから。
奈緒美の住んでいる、古めかしい石造りのアパートメントは、たくさんドアのついた一つの家だ。
この通りは、進んでも進んでも同じ風景が続く。
違いはただ、玄関戸に貼られた数字だけ。
69と書かれたドアが軋んで開く。
69、ろっく、ロック。
つまらない洒落だ、それも日本語の。
人当たりのいい爽やかな笑顔が頭の中に現れて、勝手に消えていく。
玄関先で律儀に靴を脱ぎ、靴箱に入れる。
三和土が無いのは大層面倒だということを、奈緒美はここに来て初めて知った。
外を歩いた靴で、カーペットが汚れないようにドアを半開きにしたまま靴を脱がなくてはならない。
外行きの服も脱ぎながら、広いキッチンに入る。
世帯用のアパートメントはどこもかしこも大振りで、正直手に余っていた。それでも、キッチンに大きい冷蔵庫が置けるのは都合が良かった。
段ボール買いをして冷蔵庫に詰めたジンジャーエールを取り出す。大きな冷蔵庫は、この辛口のジンジャーエールを約二ヶ月分保管出来る。
ビンに入ったそれは、開ける時と捨てる時がとても面倒な代物であったが、今更習慣を変えることは出来ずに、結局またストックしてしまう困り物だった。