i wish i could FLY
事切れたように静かになったアレンは強面のスタッフによって回収され、クビを覚悟した奈緒美は、オーナーに、ごめんねと軽く謝られたのだった。
怪訝な顔をした奈緒美に、オーナーはこう言った。
「もともと気性も荒かったし、こうなるのは時間の問題だったわ。ナオミは怖がらせちゃったけどこれから出入り禁止にするし、心配しなくていいわよ。今日はお疲れ様。もう帰っていいわ」
つまり奈緒美は、迷惑客を追っ払うため、オーナーにいいように使われた、というわけであった。
屈辱に顔を歪めた奈緒美がそのまま近くのバーにしけこんだのはやはり仕方のないことだった。
経緯を思い出し、背筋に冷たいものが走った奈緒美は、動けないでいた。この場から逃げ出したいが、家を割り出された以上、また捕まるのは時間の問題である。
「ナオミ、話したい事があるんだ」
眼光の割に穏やかな声を発したアレンに、さらに危機感は募る。この男は狂っている。昨日の様子も十分におかしかった。ものを壊そうと散々振り回したアレン腕には白い包帯が巻かれていた。痛さすら忘れて、ただ怒りのために暴れていたということだった。
怖い、誰か。
そう思ったとき一番に浮かんだのは呑気な顔をした大柄な男だった。カイン、と呟きそうになったとき、ナオミは何時の間にか開いていた部屋に、いつもとは違って乱雑に引きずり込まれたのだった。