i wish i could FLY
彼女をゆっくりとベッドの中央に寝かせ直し、掛け布団を首元までかける。
赤いドレスにシワがついてしまうかと躊躇したが、仕方ないだろう、と割り切った。
このまま去ってしまうのはどうにも惜しい気がして、彼はこの家に泊まることを決めた。明日は海外拠点との戦略会議があってまた出勤しなければならないが、午後から顔を出せばいいのだし、構わないだろう。
革張りのこれまた大きいソファに寝転がると、足の指先がいやに冷える気がした。靴を脱いだことに思い至ると、あれは彼女の国の習慣だろうかと改めて考えてみる。
ならば、アジア系何世云々ではなくて、しっかりとアジア人なのだろう。誤魔化すということは何か隠したいことがあるからに違いなかったが、それは追い追い聞いていこう、と彼は密かに彼女と仲良くなる計画を練るのだった。
そして、今日。高層ビルの一面ガラス張りの会議室は、会社の中で好きな場所の一つに数えても良かったが、海外拠点とのビデオ会議は好きではなかった。
回線が遠いのか、常に遅れ気味に返事がかえり、スムーズに進行することが出来ない。しかも内容はほとんど配られた書類と変わらず、きっと体裁重視の会議なのだろう。特に、拠点の一つである日本はそれを重視するらしく、忙しいだろうに画面の奥には殆どの重役が控えていた。
「では、研修員として各国から二名ずつ社員を派遣し擦り合わせを行う、ということで」
議長が最後にそう締め、一、二、三拍置いて画面の向こうの人たちが頷く。では解散、と言ってまた一、二、三、ぺこり。
これはこれで一興だったが、どうにも愉快な気分にはならない。きっと別のことに気を取られすぎているからであろう。
頭の中ではナオミをいかにして食事に誘うか、などデートプランが組み立てられている。
憂鬱だった会議を終えて、半ば浮かれたような顔でデスクに戻り、彼はいそいそと会社を後にしたのだった。