ラブゲーム
「わかった。話せよ」

「お、おお。俺さ、桜井さんとは殆ど話した事がないんだ」

「それは俺も同じだよ。たぶん、みんなじゃないかな」

 やっぱりそうか。桜井さんって、誰とも口を聞かないんだろうか。寂しくないのかなあ。

「いや、待て。速水は別だな。桜井女史が速水と喋ってるのは何度か見た事がある」

「ああ、そう言えば俺も見たかも。あの2人は同じ部だし、似たところあるしな?」

 そう。だから俺は、桜井さんを"女速水"と呼んでるんだ。心の中でだけど。

 ん?

 俺は、ふとある事を想像した。

「ひょっとして、あの2人は付き合ってんじゃないかな。そんでもって、二人して俺をからかおうとしてるんじゃ……」

 結構な自信を持って言ってみた推理なのだが、

「それはないな」

 呆気なく田所に否定されてしまった。

「なんでだよ?」

「だって、速水は妻子持ちだから」

「へ?」

「知らなかったのか?」

「あ、ああ」

「あいつは学生結婚しててさ、入社の時は既に子持ちだったらしいぞ」

「へー、それは意外だなあ」

 本当にそう思った。まるで人間味がなさそうな速水が、家で子どもをあやす姿を想像しようとしたが、出来なかった。

「だから、あの2人が付き合ってる、というのはないと思う。いや、待てよ……」

 田所はそこで言葉を切ると、視線を下げて考え込んでしまった。
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