ラブゲーム
桜井女史の謎
11月に入ったが、俺と桜井さんには何の進展もなかった。彼女に接近したいのは山々だが、互いに中間決算で仕事が忙しかったからだ。
しかし、それもようやく落ち着いたので、俺はそろそろ行動に移そうと思う。
まもなく定時になる頃、俺は総務部へ足を運んだ。目指すは、もちろん桜井さんだ。
静か過ぎるほど静かな総務の職場を見渡すと、背筋をピンと伸ばしてパソコンに向かう、桜井さんの姿があった。島は違うが、速水の姿も。
「桜井さん」
俺は桜井さんに後ろから近付き、彼女の艶やかな黒髪に向い、小声で声を掛けた。すると、桜井さんは肩をピクッとさせると、すぐにクルッて感じで俺を振り向いた。
「あ、あの……」
眼鏡越しではあるが、至近距離で桜井さんから見つめられた俺は、用意したはずの言葉が出て来なかった。単なる緊張のためか、恐怖なのかは分からないけれども。
「何か用?」
「用ってほどでもないんだけど、もし桜井さんに予定がなければ……」
「いいわよ? 何時?」
「え?」
「何時に、どこへ行けばいいの?」
「あ、えっと、1時間後に、玄関とかで……」
「わかった」
桜井さんはそう言うなり、再びパソコンに向かい、猛烈なスピードでキーボードを叩きだした。
俺は総務を後にしながら、ふうーっと息を吐いた。一応は目的を達成した安堵と、緊張から解放されて。
視界の中で、速水がこっちを見て笑ったように見えたのは、たぶん気のせいではないと思う。
しかし、それもようやく落ち着いたので、俺はそろそろ行動に移そうと思う。
まもなく定時になる頃、俺は総務部へ足を運んだ。目指すは、もちろん桜井さんだ。
静か過ぎるほど静かな総務の職場を見渡すと、背筋をピンと伸ばしてパソコンに向かう、桜井さんの姿があった。島は違うが、速水の姿も。
「桜井さん」
俺は桜井さんに後ろから近付き、彼女の艶やかな黒髪に向い、小声で声を掛けた。すると、桜井さんは肩をピクッとさせると、すぐにクルッて感じで俺を振り向いた。
「あ、あの……」
眼鏡越しではあるが、至近距離で桜井さんから見つめられた俺は、用意したはずの言葉が出て来なかった。単なる緊張のためか、恐怖なのかは分からないけれども。
「何か用?」
「用ってほどでもないんだけど、もし桜井さんに予定がなければ……」
「いいわよ? 何時?」
「え?」
「何時に、どこへ行けばいいの?」
「あ、えっと、1時間後に、玄関とかで……」
「わかった」
桜井さんはそう言うなり、再びパソコンに向かい、猛烈なスピードでキーボードを叩きだした。
俺は総務を後にしながら、ふうーっと息を吐いた。一応は目的を達成した安堵と、緊張から解放されて。
視界の中で、速水がこっちを見て笑ったように見えたのは、たぶん気のせいではないと思う。