ラブゲーム
 桜井さんはすぐに横を向いたので確証はないが、確かに頰を赤らめたと思う。もしかして、桜井さんって"ツンデレ"なのかも。

 そして、"デレ"の時の彼女が、ちょっと可愛いかったかな、なんて思ってしまった。

「えっと、居酒屋なんかでもいいですか?」

 と言って、桜井さんの顔を覗こうとしたら、

「いいわ。行きましょう?」

 と彼女は言い、さっさと歩き出してしまった。もう一度、彼女の"デレ"の顔を見たかったのに、残念だ。

 彼女の後を追うようにして玄関を出ると、少し冷んやりとした外気が顔に当たった。

「今年は寒くなるのが早いかもですね?」

「そうね」

 俺と桜井さんは、駅の近くのやたらと高いビルを目指して歩き出した。そのビルの地下に、ちょっと気に入った居酒屋があるのだ。気分的には同期会をしたイタリア料理の店へ行きたかったが、代わり映えしないのと、職場の連中がそこへ行ってるはずなのでそっちは避けたのだ。

 並んで歩いてみると、桜井さんが思っていたよりも背が高い事がわかった。俺は180センチちょっとだが、彼女はヒールの分を差し引いても、おそらく170センチはあると思う。

 俺たちは居酒屋へ入り、4人掛けのテーブル席に向かい合わせで座り、まずは生ビールで乾杯をした。

 そしてビールを喉に流し込み、テーブルにコトンとジョッキを置くと、桜井さんはジョッキに手を添えたまま、ジッと俺を見ていた。そして、

「三浦君は……もう諦めたのかなって、思ってた」

 と言った。
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