ラブゲーム
 刺身は美味く、たまに飲む冷酒もなかなかだ。そして鍋が特に美味く、ふゆみさんが小皿によそってくれ、上原もしてくれて、正に"両手に花"状態だった。

 そろそろお開きという頃、俺はふゆみさんの耳元に口を寄せ、「この後、用事ある?」と、小声で聞いた。

 するとふゆみさんも、俺の耳元に口を寄せて、「ないわ」と返事をくれた。その時、ふゆみさんの甘い、かどうかは分からないが、吐息が耳に掛かり、背筋がゾクっとした。

 再びふゆみさんの耳元で、「2人でどこかへ行かない?」と聞いたら、ふゆみさんは俺に顔を向け、コクッと頷いた。

 超至近距離で見るふゆみさんの顔は、いつにも増して魅惑的だ。ふゆみさんも冷酒で酔っているようで、頰はほんのり赤くなり、目はトロンと潤み、濡れたピンクの唇は、今すぐ食べてしまいたいほどだ。

 今夜あたり、キスしてもいいだろうか……

 俺たちは少しの間見つめ合ったが、ふと気づくと周りから音がしない。さっきまではガヤガヤと話し声がしていたはずなのに。

 ふゆみさんから視線を外したら、みんなが俺を見ていた。いや、俺とふゆみさんをだ。ジトーって感じで。

 いよいよ会はお開きとなり、居酒屋を出て、俺とふゆみさんは並んで歩き掛けたのだが、不意に誰かに腕を引かれてしまった。
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