抹茶まろやか恋の味
とりあえず周囲を見回すと自動販売機を見つけた。喉も乾いていたので一番安いミネラルウォーターに手を伸ばす。
「あっと……。校舎内のは現金のみか……」
近年、駅や都会の自動販売機はスマートフォンや定期券のICカードで購入できる。そのせいか、必要以上の現金を持たなくなってしまっていた。
それに常時ポケットに入れてある、がま口財布の中には、百円玉一つが入っているだけ。このご時世、百円では自動販売機の一番安い飲み物すら買えない。世知辛い。
未練がましく他のポケットをあさってみても、中から出て来るのは今朝入れた洗いたてのハンカチタオルだけ。
なんでハンカチタオルは入れておきながら小銭の補充をしておかなかったのだろう……。
もう一つ財布はあるが、カバンの中でしかも担任に貴重品として預けてしまっている。
「やば、飲めないとなると余計喉が乾いてきた……」
はあ。
がっくりとうなだれながら、そのまま自動販売機の影にしゃがみこんだ。
そもそも僕は今日の昼をどうやって済ます予定だったのだろうか――と思い出そうとしてみたが、頭に浮かぶのは昨日の大和撫子・利香さんのことだけ。百円あればお茶会にでられるからそれだけで良い、と思ったのだろうか……数時間前の僕は。
呆れて物が言えない……。
そしてこういう時に限って、知人どころか人が一人も通らない。
僕はこのまま誰にも見つからずに行き倒れてしまうのか――。
「あの……どうかしましたか?」
桜の花びらが儚く舞うが如く――そんな可憐な声がした。
ゆっくりと顔を上げると、そこには昨日の大和撫子が首を傾げながら立っていた。