雨恋~芸能人の君に恋して~



あの頃の彼は、



顔は綺麗だけど、無口で無愛想で、



近寄りがたい雰囲気で、



けどお芝居の時にだけ見せる笑顔は、誰よりも眩しかった。



優紀君が、あのときと同じ笑顔で、こちらを見てる。



数秒、私のとこで視線を止めた。



気付いた?



私のこと。



本番中にも関わらず、演技を忘れて、彼に見惚れる。



ドキドキ、ドキドキ、



胸の鼓動が止まらない。



かつて同じ場所にいた人。



今では、彼はこのシーンの中央にいて、眩しいライトを浴びながら、数台のカメラが彼の姿を追っている。



私は、沢山の人に埋もれながら、手を伸ばしても届かないほどに遠くなった、優紀君を見上げることしかできない。



気付いて欲しい!



そう願う反面。



エキストラなんかやってる自分を、見られたくないって思った。



「カット!よかったよ、優紀」



監督の声。



私がボーッとしてようと、いまいと、誰にも気づかれない。



それくらい、ちっぽけな存在の自分に、少しだけ胸が痛かった。



< 4 / 94 >

この作品をシェア

pagetop