雨恋~芸能人の君に恋して~
あの頃の彼は、
顔は綺麗だけど、無口で無愛想で、
近寄りがたい雰囲気で、
けどお芝居の時にだけ見せる笑顔は、誰よりも眩しかった。
優紀君が、あのときと同じ笑顔で、こちらを見てる。
数秒、私のとこで視線を止めた。
気付いた?
私のこと。
本番中にも関わらず、演技を忘れて、彼に見惚れる。
ドキドキ、ドキドキ、
胸の鼓動が止まらない。
かつて同じ場所にいた人。
今では、彼はこのシーンの中央にいて、眩しいライトを浴びながら、数台のカメラが彼の姿を追っている。
私は、沢山の人に埋もれながら、手を伸ばしても届かないほどに遠くなった、優紀君を見上げることしかできない。
気付いて欲しい!
そう願う反面。
エキストラなんかやってる自分を、見られたくないって思った。
「カット!よかったよ、優紀」
監督の声。
私がボーッとしてようと、いまいと、誰にも気づかれない。
それくらい、ちっぽけな存在の自分に、少しだけ胸が痛かった。