雨恋~芸能人の君に恋して~
「優紀!」
その時、スタジオを出ようとしてたもえなちゃんが、優紀君を呼んだ。
「早くいこ?」
優紀君の腕をつかんで、甘えたように引っ張るもえなちゃんは、
「みんなに迷惑かけておいて、よく暢気に笑えますね」
私を睨んだ。
3つ年下のもえなちゃんに「すみません」と敬語で謝ると、もえなちゃんは返事もしないまま、優紀君と一緒にスタジオの外に出て行った。
「感じわりーな、あの女」
私たちのやり取りを、そばで聞いてた開が、吐き捨てるように言った。
「でも迷惑をかけてるのは事実だから」
開は、落ち込む私のほっぺをプニッと摘まんだ。
「そんな顔するな。だったら誰も文句がいえねーくらい、最高のものにすればいいだけだ。小手先だけ旨い奴らなんかに負けるな。お前の演技には、魂がある。自分を信じろ、琉宇」
「ありがとう、開」
力強い励ましに、泣きそうになる。
「お?ちょっとは俺のことが好きになったか?」
嬉しそうに、そう聞いた開に、
「ぜんぜん」
真顔で返事した。
けどありがとう、開。
そして優紀君もありがとう。
みんなにいっぱい迷惑をかけてるんだから、落ち込む暇があったら、演技に集中しよう。
私は前を向き、真っすぐに監督の元へと向かった。