雨恋~芸能人の君に恋して~
ある日、リハーサルスタジオの廊下で、もえなちゃんとすれ違った。
もえなちゃんは、いつもの砂糖菓子みたいに甘い顔じゃなく、鋭い目で私を睨んだ。
「琉宇ちゃん、最低!」
もえなちゃんの言葉に、顔が強張る。
「優紀が琉宇ちゃんのことが好きなのは知ってた。琉宇ちゃんだって優紀が好きだったんじゃないの?なんで開君なのよ。優紀を傷つけるなんて。琉宇ちゃんなんて、大嫌い!」
大きな声で、そう言ったもえなちゃんに、林田さんも、もえなちゃんのマネージャーも慌ててる。
もえなちゃんは「ふんっ」て顔を背けると、怒った顔をしたまま行ってしまった。
新しいドラマの打ち合わせのために来たリハーサルスタジオ。
仕事中は、役に入り込んでいるから感じないけど、
待ち時間や、休憩時間のふとした時に思い出す。
胸が張り裂けそうな、優紀君の悲痛な声を。
『捨てないで』
どんな思いで、その言葉を口にしたの?
優紀君は、また一人ぼっちで、肩を震わせて泣いていたのかな?
6年前、雨の中、ずぶ濡れで泣いてたみたいに。