さよならの準備
思い出すだけで自然と笑みが浮かんで、くすくすと声をあげる。
ふんわりとベッドがあたしを包みこんでいることも心地よく、夢見心地のように楽しくて。
人が今のあたしの姿を見たら「なんだこいつ」と眉をひそめてしまうほど、軽やかに笑う。
紡がいて、部員のみんながいて、その輪の中にあたしもいた。
あの毎日は、幸せだった。
纏う空気が柔らかく、羞恥のあまり苦しくも優しかった。
あの頃に戻りたい。
つんと顔を背けながらも、互いの想いに不安なんてひとつもなかったあの頃に。
「あれ……」
さっきまであんなにも弾んでいたはずの心が今、こんなにも重い。
涙が浮かぶわけでもないまぶたを強く押さえる。
胸の奥で荒れ狂う感情を、抑える。
それでもなお、想いの欠片はあたしの指の隙間からこぼれ落ちた。
ねぇ、紡。
あたしは戻れないとわかっているからこそ、君との幸せな日々に、どうしても戻りたかった。
君のもとに、戻りたかったんだ。