さよならの準備
ひとりきりの家は、本当に新しい年がはじまったとは思えない。
世界はこんなにも明るいのに、終わりへと向かっているよう。
あたしのいる空間は静かで、さみしい。
ねぇ、紡。
あたしね、……さみしいよ。
ふたりで出かけるにしても、初詣くらいいいんじゃないの?
だってただの遊びじゃない、伝統行事。
お守りを買って、絵馬を書いて、神様に少しくらいお願いして。
それくらいもだめなの?
そんなに必死にならなきゃいけないのなら、そんな大学には行かないで欲しい。
君が頑張れば頑張るほど、あたしはこわくなって、いやになる。
君を応援できない、汚いあたしになっていく。
紡は気づいていないでしょ。
あたしのことなんて目に入っていないもんね。
震えないスマホがそんな卑屈な考えを増長させる。
君からの返事がない。
君からの着信がない。
それなら、あたしの手の中に収まる小さな機械に意味なんて、価値なんてないんだよ。