さよならの準備
高校3年生になって、紡は塾に通うようになった。
はじめの頃は部活と両立していて、大変そうだなと思うくらいだったんだ。
駅で別れるのはさみしかったけど、部活で必ず同じ時間を過ごすことができていた。
だから、気にとめるほどじゃなかった。
だけど引退してしまえば、その時間は全て勉強へとあてられた。
今日は小テストがある。
もうすぐ模試。
受験科目の選択をしないと。
自分の得意な範囲、苦手な範囲。
スマホのロック画面は、常に真っ暗な背景に白い『絶対合格』が浮かび上がったまま。
紡は、あたしを置いて受験生になった。
誰より真面目な、努力家な、ストイックな、受験生に。
そして、ふたりで過ごす帰り道は短くなった。
一緒にいる時間が減った。
LINEも電話も少なくなって、繋がりは儚いものになって。
紡の瞳にあたしは映らないし、笑みを向けられることもほとんどない。
あたしは、紡の中のあたしが薄くなっていることを、わかっていた。
できなくなったらことばかり、心に引っかかり苦しかった。