さよならの準備
でも、本当はわかってる。
紡だけじゃない。
紡だけが悪いわけじゃない。
あたしも、変わってしまった。
むくりと体を起こした。
残っていたお雑煮を流しこみ、ごちそうさまと手を合わせる。
手早く片づけて、階段を踏みしめる。
たんたん、という自分の足音を聞きながらも意識は別のところにあり、息がもれた。
そのまま部屋に向かい、問題集とノートを開く。
あたしも結局はこうして、家族と過ごすことを選ばなかった。
家にひとり残り、受験勉強をする。
紡ほど頑張ってはいないけど、あたしだってちゃんと受験生なんだ。
塾に通ってなくたって、 家や学校に勉強する場所はある。
進路相談なんかで紡と帰れないことだってあった。
優先すべきことを優先してきた。
変わったのは、ふたりともだったんだ。
だからこそ、現状をどうにか変えたかった。
逃げるにしても戻るにしても、今の苦しみから遠ざかるならなんだってよかった。
だけどどうにもならないんだ。
あたしのスマホは鳴らない。
君は遠い。
さよならまで残された時間は、もう残りわずか。