さよならの準備
「なんでそんなふうに泣くの……」
「言えない……っ」
涙を隠すように指先で拭えば、紡が強くあたしの腕を引く。
わずかにクリアになった目の前には彼の怒ったような顔が広がった。
「隠すのは、もうやめてよ」
「隠すとかそんなの、」
「1度だって進路のことを話さなかったのに、そんなわけない。
俺に言ってないことがあることくらい、わかってる」
うつむいて、こぼす声色の悔しそうなこと。
……切なそうなこと。
「弓道部に行きたいとか、したいことだけじゃなくて、して欲しくないことだって言っていい。
なにも隠さなくて、いいよ」
遊びたい。
笑い合いたい。
あの頃に戻りたい。
だけど本当はなにより、どこにも行かないで欲しかった。
あたしのそばから、離れないで。
「さみしいならさみしいって、言ってよ……っ」
まるでけんか腰。
厳しい口調で泣いている理由を再び問われた。
「……さみしい、から」
溢れ出した感情のまま、きつく彼を睨みつける。