さよならの準備
「回り道しなくなった!
毎日一緒に帰れない!
電話も、メールも減った!」
「ああ、そうだね!」
「だから進路が別れてしまうこと、本当はずっと、さみしかった!」
「俺もだよ!」
「っ、」
「俺だって、さみしいんだよ」
予想もしていなかった言葉に体が、心が、崩れ落ちてしまいそうになった。
目を見開いて、あたしは静かに息を呑みこんだ。
「梨沙と離れることが平気なわけじゃない。
それでも自分で決めた進路だから、必死で頑張ってきた」
「……知ってる」
「だけど、それで梨沙が気を遣って本当の気持ちを隠す必要なんてないんだ」
震えた息が声になる前に消える。
「悲しいなら悲しいって、好きなら好きって、素直になって。なんでも言って。
ひとりで抱えこんだりしないで」
力の抜けたあたしの腕から手を離して、紡が優しく頬に触れる。
雫が彼の指に伝った。
「勝手に俺たちふたりの未来を諦めて、離れるなんて許さないから」
濡れた指先を握り締めて、紡がきっぱりと言い切った。
それがやけに嬉しくて、あたしは声もなくただこくこくと頷く。