さよならの準備
「俺は梨沙が好き。
不器用で、怪我してばかりで、強がりで、気持ちを口に出すのが下手な、梨沙が好きだよ」
突然の告白に何度もまばたきを繰り返す。
その表情がおかしかったのか、息をもらした紡があたしの手を引いて元の道を歩きはじめる。
「そんな梨沙が望むなら、俺はどれだけでもこうやって寄り道して、回り道して隣を歩くよ。
無駄で必要なくて、だけどとても大切な時間を過ごしてあげる」
あたしのすぐそばで彼の黒髪が揺れた。
「だから未来を、信じて。
目指すものは違っても、きっと同じ道から進んでいけるよ」
「……っ」
ずっと欲しかった。
ふたりの、笑いあう未来が、欲しかった。
弓道部という場で過ごした高校生活の中。
今までで1番楽しかった、もう届かないあの頃のようで、それよりずっと幸せな日々を。
他でもない紡と掴んでいきたい、掴んでいけるなら。
望むことを許されるなら。
いつもと変わらない紡の横顔。
わずかに先を行く彼を見上げたままでいれば、なに? と視線が落ちてくる。