さよならの準備
「今さらかもしれないけど、あたし受験勉強頑張る。志望校に行けるように、もっと努力する」
「うん」
「だから、紡も頑張って」
やっと言えた。
応援できなかった君の進む道を、ようやく心から支えたいという想いを得ることができた。
そのことが心を穏やかに満たしてくれる。
これからもずっとそばにいてくれると約束してくれた紡のために、あたしもできることはするんだ。
大切な彼の隣は誰にも譲れないから。
「受験合格して、卒業したら。
俺と梨沙のふたりで卒業旅行……行こうか」
「っ!」
あたしの彼氏は冷たいふうを装った、とても優しい人。
こんなにもあたしのことを想ってくれる。
だから、ほら、さみしくない。
「楽しみにしてる!」
あたしは満面の笑みで彼の提案に応えた。
「ねぇ、紡。手、貸してよ」
「……ん」
文句も言わず、紡は大きな瞳を細めてあたしのほうに掌を向ける。
目指すものも形も違うけど、ふたりで肩を並べたなら。
きっとできる。
君となら、なんだってできる。
差し出された紡の手と自分のものを優しく重ねた。
こうやって手を繋いで、歩いて行く。
ふたりでずっと、ずっと。
fin.