さよならの準備
よく寄り道をしたコンビニを通り過ぎた。
夏はアイス、冬は肉まんを半分に分け合ったなぁ。
そんな小さな思い出が、こんなにも愛おしくて恋しくなる日が来るなんて、知りたくなかったよ。
「アッキー」
そう口にした瞬間、紡がぴくりと反応する。
明口だから、アッキー。
弓道部での彼のニックネーム。
「その呼び方久しぶりだね」
ちらりとあたしに視線をやって、紡が不思議そうにする。
これは付き合う前までの呼び方。
付き合うようになってから、今までずっと呼ばなくなっていた、愛称。
「……って呼んでた時の方が、よかったかなって」
あの頃のあたしは今みたいな悩みも苦しみもなく、ただ部活を頑張る毎日で。
今よりずっと幸せだったと、思う。
「……なにそれ。別れたいの?」
「そういうわけじゃない、けど」
言葉に詰まるあたしを見る紡の瞳は冷ややかだ。
ぴしゃりとあたしを遠ざける。
「別れたいならそう言えばいいのに。
馬鹿らしい」