先生、俺を見て(仮)
――――
「はあーーおなかいっぱいー」
「...ごちそうさま、でした」
鍋を空っぽにするまで食べつくした二人はふうと息を吐く。
もうおなかは満腹感でいっぱいだ。
カチャカチャと音を立てて食器を流し台まで運ぶ蛍の後ろ姿を颯はぼんやり見つめていた。
「ねえ先生」
「なーに?」
「...今さらなんだけど、俺一応生徒なのに、先生が家に上げるっていいの」
蛍はそれを聞き、颯の方を振りむいた。
確かにあまりよくはないだろう。
だが、その点に関しては蛍の考えと言うものがあった。
「今日、君を誘ったのは生徒だからじゃないよ」
「え、」
「お隣さんとして君が心配になったから」
ちゃんと食べてるかなーとか
一人暮らしっていうだけで相当大変なのに、彼はまだ高校生
心配するのはおかしいだろうか
いや、
先生と生徒という関係がなくてもきっと私はこうしてた
「あれよ、あれ!おすそ分け?作り過ぎちゃって食べきれないからお隣さんもどうですか?って感じの事よ」
「...ふーん」
「ほらほら、解決したんだから颯君も食器洗うの手伝って!」
蛍の言葉に「げっ」と、あからさまに嫌な顔をする颯。
「今は生徒じゃなくてただのお隣さんどうしの関係なんだから遠慮しないよ!」
ただでご飯食べれるなんてそんな甘くないんだから!!
そんなこんなで、半強制的にではあるが、颯と蛍は一緒に台所に並び食器を洗いかたずけていく。
蛍が洗い颯がふいていくのだが、隣で見る限り彼の手つきは悪くない。
かと言って手慣れているというわけでもないのだが。
片付けが終わった二人はソファにつき、お茶を飲みながらまったりと過ごす。
颯はきょろきょろと部屋の中を見回していたが、その数分後、自分の部屋へと戻っていった。
蛍の部屋を出ていく直前、
「...今日は、ありがとうございました。すき焼き、美味しかったっす」
と不器用ながらもお礼を言って、颯は出ていった。
そんな彼の表情は以前より、ずっと柔らかくなっていた、そんな気がした。
二人の間にあった距離がぐっと縮まった一日なのだった。