先生、恋の病に罹ったんですが
先生、恋の病に罹ったんですが
「先生ー」
私は保健室の扉を開けた。
「どうした?」
書類をまとめていた先生が、顔を上げる。
………うん、今日もイケメン。
「体調不良でーす」
にやける頬を抑えて、深刻そうな顔を作る。
「原因は?」
「恋です」
怪訝そうに、先生の顔がゆがむ。
そんな先生もカッコイイと思ってしまう私は、かなり病気が進行しているんだと思う。
「………は?いや、すまん。もう一度」
「だから、恋の」
「あー、わかった。で、相談か」
明らかに適当にあしらう先生。
私はちょっと唇を尖らせる。
私は、本気なのに。
「そうなんです。もう、胸が苦しくて」
「そりゃ大変だ」
「やっぱ、先生なら分かってくれると思ってました」
「そーだな」
ねぇ、先生聞いてる?
書類じゃなくて、私を見てよ。
「だから私、先生に会いに来たんです」
「ふーん」
ここで、私は留めの一言を放つ。
「だって、先生が好きだから」
「おう………ん?」
ガバッと先生が顔を上げる。
眼鏡の奥の瞳が、まんまるになる。
「好きなんです。性格も顔も声も。先生の全て」
1日、先生に会えないだけで、どうかしちゃいそうなくらい。
「本当、どうしてくれるんですか」
「いや、そんなこと言われても………」
眉を下げて、私から目を外らす先生。
ああ、困らせちゃったなあ。
私は、黙って俯いた。
そりゃ、生徒にそんなこと言われても、先生困るだろうし。
私もつい勢いで、言っちゃったし。
でも、本気で好きなんだもん。
好き、なんだもん。
でも、この沈黙が辛い。
「〜〜っ、ごめん。先生」
もう、耐えきれなくて逃げ出そうとしたとき。
「言い逃げは、ずるだろ」
いつの間にか、すぐ後ろに来ていた先生が、ドアを閉める。
「こっちむけ」
仕方なく振り返る。
けど、先生の方は見れない。
「いいから、顔上げろ」
「無理ー!」
「先生の言うことを聞きなさい」
無理やり顔を上げられる。
思いのほか、近くに先生の顔があった。
「いいか、俺がお前の先生である以上。お前が俺の生徒である以上、俺は告白を受けれない」
やっぱり、そうだと思った。
これで、先生と顔を合わせづらくなってしまった。
あーあ、告白するつもりなんかなかったのに。
「先生、ほんとにごめんな」
「まだ話は終わってない」
先生は私の唇に指を当てて、口を塞ぐ。
キスをされたみたいに、唇がじわりと熱くなった。
「俺がお前の先生でなくなったら、どうかはわからないがな」
「っ!!」
それって………!
「先生、私が卒業するまで待ってくれるんですか?」
「お前はどうなんだ。あと、一年半も好きでいられるのか」
「で、できます!だって私、先生のこと大好きだもん」
今までだって、ずっとずっと大好きだったんだから。
「じゃあ、俺も待っててやるよ」
「約束ですよ」
小指を差し出すと、先生も笑いながら小指を絡ませた。
「指切りげーんまん____………」
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