才川夫妻の恋愛事情
「…………は?」
「だから隣の席とか緊張するけど、かなり嬉しい」
ざわっとオフィス一帯がどよめいて、周囲では色んなことが囁かれた。「あいつら隣にしたの誰だよ」とか「才川くんってあんなキャラだったっけ?」とか「会社で口説くなよなー」とか。
彼は最後に耳に入ってきた小言を拾って周囲に言った。
「すみません。なるべく我慢しますけど口説くかも」
まだ呆けている私の前で、周りからの嬌声や野次に対してにこにこと笑っている。それは決して家では見せない種類の笑顔。
口説く?
才川くんが?
私を?
どうして。
理解が追いつかない私の手を握りなおして、彼が周りに聴こえないくらいの小ささで囁いた言葉で、やっとわかった。
〝ドキドキしてていいよ〟
その一言で。馬鹿みたいだけど。座っていたけど。
今度こそ本当に膝から崩れ落ちるかと思ったのでした。