才川夫妻の恋愛事情
きれいに押せた〝才川〟の字のインクを乾かそうと、パタパタ書類をはたいているとまた電話が鳴った。外線だ。片手を伸ばすと才川くんが「出るよ」と手を制した。
「はい、東水広告社です。はい……。はい、お世話になっております、才川です」
今の番号は旅館チェーンかな……。
書類をトレイに置いて、メモとペンを才川くんの手元に置く。手で〝ありがとう〟と合図して、彼は自然とそれを受け取って会話を続けた。きちんとお礼を言ってくれるところも、好きだと思った。
「はい。えぇ……はい、そう記憶しています。期初にそれで予算設定しましたよね。はい……」
言いながらさらさらとメモに走り書く。強くて綺麗な文字。
〝新聞予算〟〝役員会議〟〝試験的に〟
……〝WEB予算〟?
「…………え? 全部、ですか?」
あ。
珍しくやばいって顔してる。
しばらくは残業かしらとあたりをつけながら、才川の印鑑を大事にポケットにしまった。