才川夫妻の恋愛事情
「連れてってやってください駒田さん。今度はぜひ私も一緒にお願いしますね」
「お前と行くならうどんよりかはバーだろうなぁ」
「駒田さんの行きつけでお願いします♡」
「いやーあの。俺は」
二人の間に割って入ろうとする才川さんは、きっと断りたかったんだろう。だけど魔女がそれを許さない。
「どうせ今から男一人の家に帰ったってコンビニ飯でしょ」
「まぁ……そう、ですね」
「ちゃんと食べなさい。それから先輩をよいしょして後輩を可愛がりなさい」
「松原。俺の前でよいしょって言うな……」
「やだぁ、私はいつでも本気で駒田さんのこと尊敬してますよっ。ほんとに良いお店ご存知ですもんねー」
「尊敬してるとこそこだけ……?」
断るタイミングをなくした才川さん。じっと見ていると、目が合った。
彼は〝仕方ない〟という風にふっと笑った。
数日前、才川さんが出た電話を皮切りにして営業2課では突発案件が次々に起きた。才川さんがメインで担当している旅館チェーンは何やら差し迫って対応しているみたいだし、松原さん担当の下着メーカーは広告を一新するらしく「またコンペか!」と彼女は嘆いていた。さっきまで作っていたのはそのプレゼン資料だ。
そんなわけで営業2課の一部のメンバーはこの時間まで深夜残業。
私と才川さんと駒田さんは、深夜にうどんを食べることになった。