才川夫妻の恋愛事情
全員のどんぶりの中身が残り少ないダシだけになって、最後に熱いお茶を三人で飲んだ。
「駒田さん注ぎましょうか?」
「あぁ頼む」
すぐに空になった駒田さんの湯飲みに、席に置かれていたポッドでお茶のおかわりを注ぐ。ちらっと才川さんの湯飲みを確認すると、中身はほとんど減っていなかった。
おかわりを目前に差し出すと駒田さんはサンキューと軽く礼を言って、すぐに口をつける。一息ついてから、才川さんに言った。
「お前が苦戦してる件だけどな」
「はい」
「見切りをつけるタイミングを間違うなよ」
そう言ってずずっと熱いお茶をすする。駒田さんのその姿はさっきまでの下ネタ親父とは違って、中堅の貫録がある。
「……」
才川さんが苦戦している件というのはきっと、あの電話から始まった一件のことだろう。私は詳しいことをよく知らない。ただ聞こえてきた話から推察するに、才川さん担当の旅館チェーンが、今期新聞広告に充てる予定だった予算をすべてWEB広告に付け替えると言い出した。……らしい。
「あちらさんもトップダウンできた話なんだろ? 現場でコントロールできないんなら、今回は各新聞社に死んでもらうしかねぇんじゃねーか? 庇いきれるとは思えない」
「……まぁ、そうですよね」