才川夫妻の恋愛事情


「飲むって言ってもたまにだぞ? しかも語り合うというよりかは、俺が一方的に嫁さんの愚痴を聴いてもらうってくらいで……」

「あ、駒田さん奥さんいらっしゃったんですね」

「なんだ今の〝あ〟は。わかりやすく意外って顔すんな」

「すみません」



実際意外だったのだ。広告マンはたいそうおモテになるようで、私が知っている限り男の先輩たちはなかなかの遊び人だった。結婚も皆さん遅くて、四十を前にしてついに、観念したように結婚する、というイメージがある。

駒田さんは眠いのか両手で目を押さえながら、あー、と息をついてから話を続けた。



「あいつ聞き上手なんだよなぁ~」

「どんな愚痴があるんですか?」

「んー? そうだなぁ……愚痴っていうか……。付き合いが長いとどう接していいかわかんなくなるんだよ」

「そんな長いんですか奥さんと」

「いま結婚7年目」

「……」

「〝意外と長くないな?〟って顔すんな」

「心を読まないでください」



やっぱり駒田さんも観念したクチらしい。



「大変なんだぞ7年目だって。結婚記念日もネタが尽きてくるし、甘いコトなんて今更シラフで言えねぇだろ。それでも求められてるような気がするから勝手にプレッシャー感じちまって……」

「へぇ」

「……やっぱり才川のほうが聞き上手だな」

「すみません……」

「才川なぁ~。聞き上手だけど軽いんだよなぁ。しっかり話聴いてくれてんのはわかるんだけど、あいつ、頷きながら〝わかります〟って言うんだ」

「……へぇ?」




それはそれは……。

いろいろと勘ぐってしまう証言です。
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