才川夫妻の恋愛事情
「わかってたまるかってんだよ独身貴族が! 会社で花村といいかんじになりやがって!」
「落ち着いてください」
どうどう、とおねむな四十路の先輩をなだめながら思い出す。
さっきのうどん店を出る間際に才川さんのスマホが震えた。彼の隣に座っていた私は見てしまったのだ。
才川さんのスマホに届いていたLINEの通知。
〝冷蔵庫に入れとくね〟と。
表示名はわかりやすく〝花村〟だった。
わかりやすすぎてどうかと思う。
探りを入れている自分が、段々馬鹿みたいに思えてきて。
「……ほんとに、いいかんじですよねぇ」
「あ?」
おまけにもう一つ。
花村さんの言葉を思い出しながら、
「うまく立ち回ります」と言った才川さんの横顔を気付けばじっと見つめていた。
……なんで私あのとき、ちょっとドキッとしてしまったんだろう?
「……嫌だなぁ」
これはだいぶやっかいな気持ちに気付いてしまったかもしれない。
私は寝落ちしそうな駒田さんの体を揺さぶりながら、一旦、忘れることにした。