才川夫妻の恋愛事情
「……ん? なに?」
「みつき、野波さんに何か言った?」
「え?」
なんでここで野波さん? と疑問に思いながらも心当たりを探す。と言っても、野波さんと最近じっくり話したのはこの間の帰り際くらいだ。
実は一つだけ、あの事かなぁと思う会話があった。
でもそれはちょっと、私の口からは言いにくい。
「何かって、例えばどんな?」
「……いや、まぁいいや。おやすみ」
「うん? ……おやすみなさい」
電気が消されてパタリとドアが閉まる。
濁しちゃったなぁ。でもこれはちょっと言えない。
もしかしたら会社でなら、才川くんと花村さんの関係性の中で軽く言葉にして言えるのかな。でもそんな風にして伝えたくはなかった。
瞼が重くなる。
今日も一人のベッドで。
囁かれた左耳の熱に悩まされながら、眠る。
*