才川夫妻の恋愛事情
まさか、と思いながらじっと凝視していると、彼は両手を私の肩にかけてきた。まだ人が残っているオフィスで注目が集まるのを感じる。されるがままでいながら、まさかシラフでキスはしないだろうな? と警戒していると、才川くんは額を私の肩に乗せてきた。
「、」
なにこれ?
思わず、行き場のない手が浮いた。
「今のはすごい。読みすぎ。……あー、愛しいわ花村……」
「いとっ……!」
演技かよ!
と思いながら会社でも初めて出てきた〝愛しい〟というワードに狼狽える。なに! 急に溺愛のレベルを上げるのやめてほしい。何て返せばいいの!
「っ……やだ、才川くんってばっ。当然じゃないですか♡どれだけ付き合い長いと、思って……」
不自然なほどの猫撫で声を出してしまったことに、言ったそばから〝しくじった〟と悔いていた。でもそれさえも次の言葉で吹き飛んだ。
気付けば肩に置かれていた手はぎゅっと私の体を抱きしめていて。
肩に凭れ掛かる彼の口から、
飛び出す一撃必殺。
「愛してるよ」