才川夫妻の恋愛事情
電気を点けて新聞の縮刷版を探す。探しているのはうんと昔のものだから普通の書棚にはないだろうとあたりをつけて、可動式の書庫の前に辿りつく。読みは正しくて、棚に貼られている分類パネルを見ると〝1990年以前縮刷版〟とあった。書棚の側面についたハンドレバーをぐるぐるまわすと、その書棚がゆっくりと動き出した。しばらくまわし続けると目当ての書棚と隣の書棚の間にスペースができる。自分一人入るには充分なスペースをつくって中に入った。
(……あれ。社長が現場やってる頃って……いつ?)
たくさんの縮刷版を前に、迷ってしまった。慌てて資料室に駆け込んだものだから社長の年齢を調べてくるのを忘れてしまった。スマホもデスクに置いてきてしまったし。……しくじったなぁ。これじゃ探せない、と思ったときに、大きな影に覆われて一帯が暗くなった。
「社長は今年六十だよ」
「……」
「あとスマホ、デスクに忘れてた」
それを受け取りながら、手渡してきた彼の顔をじっと見る。
「……自分だって人の頭の中読みすぎじゃないですか?」
「当然だろ。どれだけ付き合い長いと思ってんの? 花村サン」
「私はもう、あなたがよくわかりません……」
はぁ、とため息をつきながら隣に彼のスペースを作る。
「またまた、そんなこと言って」
彼は当たり前のようにそのスペースに入ってきて、書棚の上へと手を伸ばしだした。私はもう答えずに自分も縮刷版へと手を伸ばす。