才川夫妻の恋愛事情
「才川と花村?」
神谷さんはビールを一口ぐっと飲んで、私に聴き返した。
「はい、お二人とご同期だって松原さんから伺ったので……」
新人歓迎会の席で、私は営業の神谷さん・竹島さんと同じテーブルについた。
ナイスタイミング。
〝才川夫妻〟のことが気になっていた私は、二人と同期だというこの二人と話すチャンスを待っていた。
スポーツをやっていたんだろうなと窺えるほど体格のいい竹島さんと、細身で柔らかな目をした眼鏡の神谷さん。どちらも私の同期女子が格好いいと騒いでいた先輩だ。
でも私のミーハー心は今、別の二人へと向いている。
「〝才川夫妻〟って呼ばれているのって、ほんとにただのネタなのかなぁって」
竹島さんは腕をテーブルの真ん中に腕を伸ばして、枝豆をつまみながら言う。
「神谷はそんなに二人のこと知らないんじゃねぇーの? あんま二人としゃべってるとこ見たことないけど」
「……まぁ、ほどほどには知ってるよ。野波さんの疑問に答えると、夫妻っていうのはネタだな。でも才川はあれだ。〝花村マニア〟」
「……花村マニア?」
「見てみろ、あれ」
そう言って神谷さんは細長い指で奥のテーブルを指す。私の同期男子が座っているテーブル。才川夫妻はそのテーブルで、そこがお互いの定位置だと言うように自然に隣同士で座っていた。……けど少し様子がおかしい。才川さんの頬がほんのりと赤い。……酔ってる?
「あいつは酔うとキス魔になる。花村限定で」