才川夫妻の恋愛事情
「……なぁ花村。知ってる?」
彼は右手を上のほうで握ったまま左耳に囁く。息を多く含んだ声のくすぐったさに肩をすくめながら、直感的に〝わざとだ〟と思った。
「っ、何を……?」
「深夜の会議室でヤってるらしいよ、俺たち」
「……は?」
一瞬言われたことの意味がわからずに訊き返してしまった。訊き返さなきゃよかったと思った。遅れて意味を理解して、さっき熱をあげた頬がまた熱くなる。
「もう終電もないような時間に。人がほとんど残ってないのをいいことに、会議室に鍵かけて」
「は、え? ……やめっ」
掴まれていた右手は彼の右手によって書棚に押し付けられていた。彼の空いてる左手は、指先で制服越しにおへその上を撫ぜる。
「ん……」
「俺が会議机に花村を押し倒して、始発が動きだすまで啼かせ続けてるんだって」
「誰が、そんなこと……?」
「さぁ? でも心外だよな。こっちは真面目に働いてるのに」
ほんとですね。心外です。……そう言って一緒に憤慨したかったけれど、じゃあこの状況は何なんですか? と訊きたい。
訊きたいけど。
首筋に顔を埋められて、息が詰まって訊けなかった。
「……本当にしちゃう? ここで」
「っ!」
言ってることがめちゃくちゃだ……!