才川夫妻の恋愛事情



「……才川くん。やめっ……どいて。あたってるからっ……」

「そう言えば最近、家でさ。俺のシャツが一枚足りない気がするんだよね」

「っ……!」



どきりと心臓が跳ねあがる。

その瞬間左の胸を鷲掴まれて、抑えた声で囁かれた。



「……みつき。どこやった?」

「あっ……」

「あぁ間違えた。……どこいったか知らない? 花村さん」

「しらっ……知らない」

「あぁそう」



ふーん、と温度のない声がして、わからなくなる。〝みつき〟って呼んだり〝花村さん〟って呼んだりするから、もっとわからなくなる。今はどっち? 会社の顔と家での顔。一体どっちのつもりで、何のつもりで? わからない。



「……花村。俺たちそろそろ」

「え……?」



体を触られてあがっていく息をおさえつけながら、彼の言葉を聴き漏らさないように耳を澄ませる。



「そろそろ、同期以上の関係になってもいいんじゃないかな」

「ん……それっ……どういう……」

「キスだけじゃなくてさ」



胸を強く掴んでいた手が滑るように下肢に伸びて腿の内側を撫でた。









――――わからない。








たった一つのことを除いたら、わからない。

あなたのことは、なんにも。



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