才川夫妻の恋愛事情
(……ほんとに、今日は早く寝よう)
やっぱり、どうも昨日の晩から思考がおかしい。
今までさんざん才川夫妻の情報を追っかけて、いろんな人から聞き取りをしてきたくせに〝見つけなければよかった〟?
おかしいでしょうそれは。
深夜残業は人をダメにするなぁ、なんて思いながら黙々と広告素材の梱包を続けていると、花村さんの焦った声がした。
「え……誤植、ですか?」
……おおぅ。
なんだか不穏なワードが聴こえてきた。
しばらく様子を窺っていると花村さんはその後三本くらい連続で電話をかけ、入稿を止めて誤植の内容を確認し、修正のお願いをかけていた。
迷いのない動きを見ていると大事ではなさそうだけど、大変なことって重なるんだな……。そうこうしているうちに四時になって、部会が始まる時間。緊急対応の花村さんを二課に残して、残りの二課の面々は部会に出席するため会議室へと移動した。
会議室に足を踏み入れたとき、前方に才川さんが座っていたことで私は初めて、今日の部会のメインが彼の事例発表であることを知る。
スクール形式でスクリーンに向かって並べられた座席の、最前列。なかなか誰も座ろうとしない最前列に、率先して新人が座るのは自然なことです。うん。超自然。
そう自分に言い訳しながら最前列の、一番左端の席についた。席には余裕があったみたいで案の定、最前列は一番左端を除いて埋まらなかった。