才川夫妻の恋愛事情



神谷さんがそう言うや否や――――キス魔は動く。

才川さんは赤らんだ頬のまま花村さんに顔を近づけると、一思いにその唇に食らいついた。



「え?」







一瞬何が起こったのかわからなかった。



見ているこっちのほうが、ここが居酒屋だということを忘れそうになるくらい自然にキスをした。

そしてそれは一瞬では終わらない。



花村さんがドンドンと才川さんの胸を叩いても離れず、それどころか彼女の頭の後ろにくしゃっと手を掻きいれて、更に口づけを深くした。



これはドラマのキスシーンですか?



微弱な抵抗をする花村さんを丸め込むようにして深いキスが続く。あれはたぶん舌入ってる。



辺りは呆然。












才川さんの気が済むまでキスをして、唇を離すとやっと、竹島さんが声をあげた。



「……だっ……大丈夫か花村ぁーっ!」

「ちょっと才川くん……! それはいくらなんでも、やりすぎ……」



近くの女の先輩もたしなめていた。びっくりした。これがスタンダードなのかと思ったらそういうわけでもないらしい。先輩たちにも予想外の出来事だったのか慌てて才川さんを花村さんから引き剥がしている。

けれど才川さんは花村さんを離そうとせず、酔っていて上機嫌なのか んー、と彼女の頬にキスをしていた。



されたほうの花村さんはと言えば。



「私は大丈夫ですから。仕方ないです、才川くん、酒癖よくないし」



慣れました、と苦笑しながら自分の口を拭う。



女神か。女神なのか。

ふつう不本意にキスされたなら怒ると思うのです。





……もし、不本意だったなら。

私は花村さんの心の内を想像する。キスされて、本当はどう思っているんだろう?



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