才川夫妻の恋愛事情
「……なぁ。あれからあいつら、一回も戻ってきてないよな」
「あぁ……まだ資料室にいんのかな」
「いるんじゃねぇ? っていうか今、資料室って才川と花村以外に誰かいんの?」
「さぁ?」
「やばいよな。噂が本当だったとしたら、今頃……」
……。
下衆だ。
考えないようにしてるのにやめてほしい。
あまりその会話を聴いていたくなくて化粧室に席を立とうとしたとき、駒田さんがやってきて先輩二人の肩を掴んだ。
「そんなに気になるなら確かめにいけばいいだろー?」
「えっ」
「見てもねぇこと想像であれこれ勝手言うもんじゃねぇぞ」
……よくぞ言ってくれました!
心の中で盛大に拍手。案外駒田さん、良識のある大人じゃないですか! と心の中で褒めたたえる。
肩を掴まれた先輩は、駒田さんを振り返りながら不満げに言う。
「えー、じゃあ駒田さん見てきてくださいよ。俺とても目撃者になる勇気ないです……」
「行かねぇよ馬鹿、大先輩使おうとすんな! こういうのはな、下の年次が行くって相場が決まってんだよ」
「……下の年次?」
あ。
しまった。
慌てて視線をそらしてももう遅い。駒田さんと先輩たちのやり取りを気にしていた私は、席から立ち上がったままばっちり先輩と目が合ってしまった。