才川夫妻の恋愛事情
資料室で才川くんに迫られたあの時。
〝……本当にしちゃう? ここで〟
〝俺たち、そろそろ同期以上の関係になってもいいんじゃないかな〟
〝キスだけじゃなくてさ〟
そんな言葉で体を寄せられて、内腿を触られて、何事かとは思ったけれど冗談だとわかっていた。何を思って〝そろそろ同期以上に〟って言ったのかはわからない。でも〝ここでしちゃう?〟なんて本気なわけがない。さすがに才川くんがそういうものを会社で持ち歩いているとも思えなかった。
だから私は、書棚の狭い隙間の中で後ろを振り返ったのだ。彼のほうを。また体が密着する。今度は正面で向かい合って。くっつくと身長差で、私はほぼ真上を向くことになった。彼の胸に手を置いて至近距離で目が合う。
「……同期以上にしてくれるんですか?」
彼の目は少し驚いていた。
才川くんはきっと、会社で私がこんなことに応じるはずがないって思ってる。
お酒の席でのキスは百歩譲って許せる。でもこんな仕事が差し迫った状況で、会社でそんなことするなんてありえない。前に社内で流れた他の人の噂に憤慨した私を見た才川くんは、そういう私の気持ちを知っているはずだった。
私は少し背伸びをして彼にキスをする。
高い位置にある首に両腕を絡めると、才川くんの手は少し迷ってから私の腰を抱いた。ずっと上を向いていると首が痛い。薄い唇の隙間を舌でつつく。彼はまた少し迷ってから口を開いて、私が肉厚な舌を吸うとガタッと肩を書棚にぶつけた。