才川夫妻の恋愛事情
前髪に何か当たったような気がしたけどそれどころじゃない。……奥さん!? 今奥さんって言った!? えぇちょっと何言ってるのこの人……! と盛大に動揺するも、狸寝入りしているばかりに何もフォローできない。
「……冗談に聴こえません」
……あ、冗談か。
「野波さんは勘が良さそうで怖いなぁ」
「ほんとに、最初にご挨拶したときから冗談に思えなかったんです。どうしても他人に思えないっていうか……」
「夫婦は他人だよ」
「……ん?」
んんん……?
行き交う言葉についていけなかった。野波さんが、まさかそこまで私たちの関係を疑っていることも知らなかった。確か、最初に挨拶したときに〝本当の夫婦みたい〟と言われたことは覚えているけれど。あれからずっと疑っていた……?
「……ん?」
今度不思議そうな声を出したのは、才川くんだった。
どうしたんだろう。目を瞑っている私には状況がわからない。
「……どうしたの野波さん」
「……面倒なことを言ってもいいですか。才川さん、私」
「才川さんのこと、好きになってしまったかもしれません」