才川夫妻の恋愛事情
……。
才川くんの〝俺の奥さん〟発言には散々慌てふためいた私だけど、意外にもこの時は冷静な気持ちでいた。
お互い独身で通している以上、こうやって才川くんが告白されることはあるだろうなと前から予想していたから。さすがにこんな形で現場に居合わせるとは思っていなかったけど。
「……」
呼吸の音がする。
才川くんは何と返事するんだろう。私と結婚していることが明かせないこの状況で。こんな時でも〝花村が〟なんて言い出すのかな。それはちょっと……嫌だなぁ。
彼が口を開く気配がして――その時、
「野波――――! 無事かぁ――――?」
野太く大きな声が響いた。駒田さんの声だ。
それに乗じてぴくっと驚き目を覚ました素振りで才川くんの肩を離れる。
「……」
その時の才川くんの疑わしげな目で〝これはバレてる〟と思ったけど、あえて言葉にしなかった。資料室の中にずかずか入ってきた駒田さんは私たち三人を見下ろして、髭を触りながら大きな声で言った。
「野波がなかなか帰ってこねぇから、まさか混じってんじゃないだろうなってみんな心配してたんだぞ」
「心配の仕方が最低です!」
負けずに大きな声を張る野波さんの顔は紅潮していた。