才川夫妻の恋愛事情



才川くんに好きだと打ち明けた野波さんの声は揺れながらもはっきりと、一文字もうやむやにしない明瞭な声だった。駒田さんの声に邪魔されてしまったものの、その声はきっと才川くんの心に届いている。

もう一度ちらりと彼の横顔を窺ってみたけれど、才川くんはすっかり会社での人好きのする表情に変わっていて何も読み取れない。



野波さんは言う。



「いかがわしいことにはなってませんでしたけど、肩枕でしっかりイチャイチャしてました」







「いやぁー花村の寝顔がかわいくて、起こせなくてつい……天使かなって」

「やだ、言いすぎですよ♡ 恥ずかしい……」



そうおどけて返しながら、ドキマギする。





〝かわいいでしょ、俺の奥さん〟





演技で言ったことだとわかっていながら、初めて外で言われた〝奥さん〟という言葉に動揺していた。



「既に終わってしっぽりしてたとこかー」

「あはは」

「笑ってんな才川、否定しろ」



よく笑えるなぁ、と思いながら。

自分に掛けられたスーツの皺の埃を払いながら、私はやっぱり彼の考えていることがよくわからなかったのでした。






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